【blog】1966年、音楽の旅。
今回の作品、『ギャンブラーのための終活入門』というタイトルですので、ギャンブルにハマってしまった人間の悲しい物語なんじゃないか?と想像する方もいらっしゃるかもしれません。“ギャンブル”というと、、、どうしてもイメージがよろしくないですしね。増して“終活”ですから。
この物語は、ある意味では、1966年のサッカー・ワールドカップのイングランド大会・決勝戦から動き始めます。
つまり、この作品における「ギャンブル」は、サッカーの結果に関する賭け事を指します。日本で言うところの“サッカーくじ”とは少し違います。イギリスではスポーツだけでなく世の中全般の出来事を対象とした賭け事が合法化されています。いわゆる《ブックメーカー》というやつですね。まさに今(2016年8月20日)だと、オリンピックの結果が盛んに賭けの対象となっているでしょうけれども、今年6月に世界を震撼させた「イギリスのユーロ離脱」も、もちろん賭けの対象になってました。あるブックメーカーのオッズでは【EU残留=1.22倍/EU離脱=4倍】だったそうです。EU離脱に賭けた人たちは結構儲かった、ってことですかね、、、幸か不幸か。
で、1966年ワールドカップ・イングランド大会。
お気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、今年は2016年。
ってことは、ちょうど《50年前》ということ。
物語は(あくまで“ある意味で”ですが)1966年に始まり、紆余曲折を経て、ちょうど50年後の今、ここ日本であらたに語られる、というわけ。ちなみにこの際、この話がフィクションなのかノンフィクションなのかは問いません。
・・・えー。大事なことなので、繰り返します。
この際、この話がフィクションなのかノンフィクションなのかは問いません。
さて。ちょうど50年前の、1966年。どんなことがあったのかな?と思いまして。作品づくりにおいて時代背景を知ることはとても大切ですから、調べてみました。ウィキペディアで分かる範囲で。まあその程度です。で、もちろんいろいろな重大な事件とかもあるんですけど、それらにはあんまり興味がないので、現在までの私たちの生活につながっている!と感じられるような出来事はあるかしら?ってことを気にしてみました。
《常磐ハワイアンセンター(現スパリゾート・ハワイアンズ)開業/「サッポロ一番しょうゆ味」発売開始/日本でメートル法施行/「ゴールデンカレー」発売開始/銀座にソニービルがオープン/日本初のコインランドリーが開店/「笑点」放送開始/ビートルズ来日/「チャルメラ」発売開始/トヨタが「カローラ」発表/「ポッキー」発売開始/ウォルト・ディズニー逝去/「週刊プレイボーイ」創刊》
結構、ありますね。
案外「へー!」って思いました。ポッキーとか笑点とか。50年って距離が、近く感じられることも遠く感じられることも、両方。面白いもんだなあ。
とはいえ、まあこのへんのことは作品理解の参考にはなりませんけれども。ほぼ日本のことだもの。
で、もうちょっと作品に近いところで1966年のことを調べてみました。
音楽!
そう、音楽は雄弁に時代の雰囲気を語ってくれますからね。
1966年に発表された楽曲もしくはアルバムってどんなものがあるのかな?って。
これがねえ、、、ちょっとすごい。
The Rolling Stones『Aftermath』
Small Faces『Small Faces』
The Yardbirds『Roger the Engineer』
The Beatles『Revolver』
The Kinks『Face to Face』
Cream『Fresh Cream』
The Who『A Quick One』
Frank Zappa & The Mothers of Invention『Freak Out!』
Simon & Garfunkel『Sounds of Silence』
John Mayall & The Bluesbreakers『Bluesbreakers with Eric Clapton』
Bob Dylan『Blonde on Blonde』
The Beach Boys『Pet Sounds』
The Monkees『The Monkees』
The Supremes『The Supremes A’ Go-Go』
・・・一部だけの抜粋ですが、すでに壮観。
Rock&Popsの黄金期だったんじゃないかしら?と思うほど。
スモール・フェイセズ、クリーム、モンキーズ、フランク・ザッパ(とThe Mothers of Invention)はこの年にデビュー。キンクスはロック史上初の(と言われる)コンセプト・アルバムを、ボブ・ディランがロック史上初の2枚組アルバムを、シュープリームスが女性グループ初のビルヴォード第1位に輝くアルバムをリリース。ローリング・ストーンズとザ・フーは彼らの名声を決定づけたアルバム、エリック・クラプトンが一時的に加入したジョン・メイオール&ブルースブレイカーズがセリフタイトルのアルバム、サイモン&ガーファンクルはその前年にヒットしたタイトル曲を冠したアルバムを、そしてこの年に唯一の日本公演を行ったビートルズは「Yesterday」のシングルリリースに次いで「Here, There And Everywhere」「イエロー・サブマリン」を含む中期の傑作アルバムをリリース。そしてそして、ビーチ・ボーイズの不朽の名作『ペット・サウンズ』がリリースされたのも、この1966年(しかもボブ・ディランの『ブロンド・オン・ブロンド』とまったく同じ発売日だったとか、、、奇跡じゃん)。
ここに挙げた以外にも、ジェームス・ブラウン、トム・ジョーンズ、プレスリー、シナトラ、モンクス、スティーヴィー・ワンダー、マーヴィン・ゲイ、テンプテーションズ、ドノヴァン、レイ・チャールズ、ハーマンズ・ハーミッツ、オーティス・レディング、ライチャス・ブラザーズ、ビー・ジーズ、ジャズではマイルス・デイヴィス、ジョン・コルトレーンあたりがこぞってアルバム出してるっていう。ちなみに、ジミ・ヘンドリックスが《ジミ・ヘンドリックス・エクリペリエンス》で活動を始めたのも、1966年。
目眩がする。。。
なんだ、この、既に出揃ってる感は。
で、先に挙げたアルバムをあらためてまとめて聴いてみたんですが、いやー、びっくりするぐらい古びてないんですよね。今なお新鮮に、なんならラディカルに響いてくる。驚きに満ちて、まったく飽きることなく、なんつったってカッコいい。むしろカッコよさしかない。芸術性とか音楽性なんてことは後世で勝手に考えればいいし、俺たちはそんなのしらねーよ!っていう感じに、どのアーティストも好き勝手やってて、エネルギーに溢れてて、、、言うなれば「世に表現する喜び」が誰のどのアルバムからも溢れてくるなあ。特に欧米でこうした音楽をリアルタイムで聴いてた世代の人たちって、頭の中は飽和状態だったんじゃないかしら。これだけの音楽を処理したり整理したりしながら聴いてたなんて想像ができないもの。
というわけで、こうしてこの稽古期間中、移動中や家で仕事をしているときにはこれらのアルバムを聴きながら、ちいさな《1966年、音楽の旅》に出かけて、そして“じいちゃん”の人生について想像します。そこから50年の、いつまでも古びない物語を編むことを想像します。
ちなみに、1966年にリリースされたアルバムのなかで個人的に最も衝撃を受け、たぶん『ギャンブラーのための終活入門』の作品づくりの経過に一番影響してきそうなのは、ヤードバーズの『Roger the Engineer』。名盤。
(田野)